久しぶりに39℃の熱が2日も続く風邪を引いて、週末を静かにすごしたので、「狼は帰らず―アルピニスト・森田勝の生と死」(中公文庫)という本を読んだ。

ノンフィクションですが、主人公の人間性や生き方がドラマチックなせいか、読み始めたら夢中になってしまった。
主人公の森田勝だけでなく、彼と絡み合うほかのアルピニストも、簡潔だけどよく書かれていて、魅力的でリアルだった。

森田勝は昭和12年(1937)に生まれたアルピニストなのですが、彼が登山を始めた時代、登山ブームとかもあったわけなんですが、そのへんの時代背景が、森田をはじめ、日本の登山に大きな影響を落としているんです。
戦前、戦後~昭和の時代、町の様子は映画や本で、一度は見たような気がするけれど、山、というフィールドがどんなだったか、この本を読んで、その時代の生の気分を感じたような気がした。

それで、ちょうど、♪ゆぅきーぃよ、やぁまーぁよ、われらーがナントカ~、ではじまる「雪山賛歌」という唄があるじゃないですか、あれを思い出したんです。

むかし私は、「おれたちゃ町には住めないからにィ」という最後のフシが、なんか排他意識っぽくてキライーって、それこそ長い間、海を愛し山へ足が向かなかった理由の一つでもあったのですが、ああそれって、知らないうちにバブルの時代の、空気に共鳴してしまっていたんだーーと、そこと違う空気を感じることができなかったのだーーと思いました。

それは、戦争、敗戦、その後の日本のいたるところにあふれている、いろいろな鬱屈や不条理から、開放されるような、そんな空気のあるところが、山だったのかな、ということでした。
そして、山にはいろんな意味の自由があり、それは例えば、学歴や貧富、政治ではなく、力と技術と経験でノすことのできる社会と環境があり、それ以外のことにはむしろ頓着しないほど評価されるような、なんていうか男っぽいワールドが、懐深く、しかも厳しく広がっている・・・。

そんな中での「俺たちゃ町には住めないからにィ」・・・だったのだと、この本を読み始めてすぐに、これが気づいたことでした。

実はこの本は以前読んだ「神々の山嶺」という夢枕獏の小説モデルとなったアルピニスト森田勝について、スポーツライターの佐瀬稔が書いたもの。

「神々の山嶺」を読んだとき、きっと実話もよく調べているのだろうと感じたので、関連の本が読みたいと思った。
小説のほうもまた、なんていうか、すばらしいパースペクティブもあり、最後までリアル感のある、よい作品なのでした。